
1.プレゼンで漫画を使いたい!
漫画やアニメ、ゲームや映画といったポップカルチャーでは、その道のプロの描いたキャッチーな絵がそこかしこに溢れ、今やかんたんに手に入れることができます。こうした絵の持つ魅力を自分のスライドに拝借したい!もしくは自分の愛する作品そのものを医療と絡めて語りたい!などのモチベーションから、漫画の画像を引用(?)して載せたスライドをよくみますが、果たしてこれは大丈夫なのでしょうか?
まったく専門外の分野ですが、引用のルールについて調べて検証しましたのでご紹介いたします。
2.引用のルール
いきなり正解からいきますが、スライドでの引用に関するQ&Aがありましたので引用します。
Q.講演で、他人の作成した資料などをスクリーンに映写しながら説明する場合、著作権者の許諾が必要でしょうか
A.自説を補強するために他人の著作物の利用を認めた「引用」に該当する場合(第32条)や非営利・無料・無報酬の著作物の上映(静止画の映写も上映に含まれます)(第38条第1項)に当たる場合は、著作権者の了解なしに使えますが、それ以外は一般に著作権者の了解が必要です。
講演の場合は、講師の話の補強材料に使われることが通常でしょうから、多くの場合において「引用」といえるのではないかと考えられます。「引用」に該当するには、
① 公表された著作物であること
② 公正な慣行に合致すること
③ 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること
④ 出典を明記すること(コピー以外はその慣行があるとき)
が必要です(第32条第1項)。②と③の要件については、少なくとも自分の著作物と他人の著作物が明瞭に区分されていること、引用にいてそれなりの必然性があり、自分の著作物が主で引用する他人の著作物は従たる存在であることが必要と考えられます。講演の場合は、講師の話が中心で、他人の著作物はその補強材料に使われることが通常でしょうから、多くの場合において「引用」といえるのではないかと考えられます。
なるほど、ざっと見た感じルールを守れば漫画の引用は許されるような気がします。①~④のポイントが大切そうですね。せっかくなので、一つずつかみ砕いて見ていきましょう。
① 公表された著作物であること
未公表作品は引用の要件に含まれないようです。例えば症例報告で患者が入院中に主治医をモデルに描いた漫画を引用した場合、著作権は患者本人にありますので、同意なく載せた場合は引用のルールでは守られません。既に出版されている漫画作品であれば問題なしということでしょう。
② 公正な慣行に合致すること
これはわかるようでピンとこない日本語ですね…。後半に説明が書いてありますがポイントとしては
・自分の著作物と他人の著作物が明瞭に区分されていること
・引用をする必然性があること
・自分の著作物が主で、引用する他人の著作物は従であること
が必要です。最初の「著作物の区分」については、例えば文章の引用であれば❝ ❞(Quotation)でくくるように、ここからここまでが引用ですよということをはっきりさせないといけないということです。漫画の場合はコマや吹き出しといった境界が存在するので、全てが自作の漫画でできたスライドに連続的に他人の作品を混ぜ込むような極端なことをしない限りは、ここはクリアできていると思います。
「引用の必然性」とは、スライドにおけるメインの内容と、引用された内容に関連がないといけないということです。たとえば、

という引用であれば関連性があると考えられますが、一方

これでは意味があるのかないのかよくわからないのでアウトかもしれない、ということです。
最後の「自分の著作物が主」であることというのは、あくまで引用であるため、メインに自分の話があり補足として漫画の情報を付与する形にしなければいけません。例えばある作品の全てのページをスキャンして一枚一枚スライドに貼り、その下にキャプションをつけるだけのようなスライドは、おそらく引用として認められないでしょう。
③ 報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われること
これについてもその境界がはっきりしませんが、医療系プレゼンであれば正当性が問われるようなことはまずないかと考えます。
④ 出典を明記すること(コピー以外はその慣行があるとき)
これは大事ですが、意外とやっていない人が多いんじゃないでしょうか?どんな引用でも必ず出典元は明記する必要があります。「どこまで書かないといけないの?」と聞かれるとページ数や出版社まで書いた方がいい気がしてきますが、スライドのスペースは限られているので、少なくとも作家名と作品名は入れましょうとのことです。
といった感じです。以上のルールにのっとれば、漫画をスライドに引用するのは問題のある行為ではないと考えられます。
基本的に親告罪といって、著作の権利者が訴えない限り罪には問われないようですが、公共のプレゼンテーションであればこうしたルールを順守することは大切なことです。
調べていくと他にも「改変は不可」「商用目的は不可」なども見当たり、どうやら他にも引っかかる要素があるようです。例えばセリフの中身を変えた引用は改変にあたるのでアウトなのか、講師料をもらっているプレゼンテーションは商用目的にあたるのか、などむしろ質問したいことの方が多くなってきます。
もし詳しい方がおられたらここのコメント欄、もしくはFacebookグループでコメントをいただければ嬉しいです。
参考図書・ウェブサイト
1. 稲穂 健市 「楽しく学べる『知財』入門」, 講談社,2017
3.福井健策 「CNET Japan 特集 その「引用」は許されるのか?講義やウェブでの資料配布は?」https://japan.cnet.com/article/35050674/2/
4. 金田淳子 「マンガの引用と著作権について書いてみる」https://note.com/higez/n/n3440f552a0ec
5.五十嵐大介「ディザインズ」第5巻, 講談社, 2019
6. 藤子・F・不二雄「藤子・F・不二雄大全集 ドラえもん」第1巻, 小学館, 2009
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