Kobayashi Kei
2つのグラフ
情報はシンプルであるほど伝わりやすいですが、医療系プレゼンテーションではややこしい話をしなければいけないことも珍しくありません。聞きなれない概念をどうすれば伝わりやすくできるか、考えていきましょう。
BEFORE

一般の方を対象にした講演で、がんのサバイバー5年生存率(診断からの経過年数に応じたその後の5年相対生存率)について説明したスライドです。情報としては十分なのですが、もともとの概念が少しややこしく、直感的にわかりづらいスライドになっています。
直したい!
「サバイバー生存率とはなにか?」が難しい
2つのグラフの遷移がパッと見てわかりにくい
AFTER

まずは「サバイバー生存率とは?」をアイキャッチで強調します。

これはあるがんの5年生存率を示したグラフです。診断から5年後に生存している人が21%ということを示しています。厳しいデータですね。

しかし、診断から1年経過した人がその5年後まで生存している率は、43%にまで上がります。

これを2年経過した人、3年経過した人と順にその5年後の生存率を集計すると、どんどん上昇し、100%に近付いていくのです。

診断から5年後、診断1年目から5年後、2年目から5年後…の点をつないだのが右のグラフであり、この推移を現したのがサバイバー5年生存率です。

サバイバー生存率とは、診断からの経過年数に応じたその後の5年生存率を指し、経過年数が長い人ほど、その後に生存できる確率が高くなることを重視しています。なぜこうなるかというと…
直した!
スライドを分割し、複雑な情報を順に説明した
プレゼンテーションの流れにあわせてスライドをデザインした
「サバイバー生存率とは~である」という1対1関係を明示した
解説
1.ストーリーの流れに乗せる
AFTERのスライドはキャプションをつけていてズルい感じですが、今回のテーマではスライドよりもむしろこのキャプションのほうが大事です。BEFOREのスライドのように一気に情報を載せてしまうと、観客の意識が「どういう順番で見ればいいか」ということに集中してしまい、最初の話がほとんど頭に入らなくなります。

おそらく最初に話されるのは「全患者の5年生存率」ですが、ここにパッと注意を向けられる人はなかなかいません。
ポイントは、どういう順番で説明をするかを先に決め、その流れに沿ってスライドを作ることです。今回であれば
1.診断からの5年生存率
2.診断1年後からの5年生存率
3.診断から年数が経つほどその後の5年生存率は高くなる
4.サバイバー生存率とは、診断からの経過年数に応じたその後の5年生存率を指す
という情報の流れができますので、それぞれの情報に適切に注意が向くようにスライドを作れば、メッセージをより明確に伝えることができるのです。
2.~とは、~である

プレゼンテーションにおけるメッセージは、記憶してもらうことが大切です。どれだけいい話ができたとしても、観た人が他の人から「どんな話だった?」と聞かれた際に「なんかよくわかんないけどいい話だったよ」となるのは意味がないわけです。
なので「~とは?」となぞかけをしたら、「~である」と明示しなければいけません。相手がノートにとりやすく、後で想起しやすいセンテンスをスライドに明記することで、記憶や印象への残りやすさは大きく変わります。暗記事項の多い大学の講義などではとても大事ですね。
「サバイバー生存率とは、診断からの経過年数に応じたその後の5年生存率である」もまだ難しい印象ですが、メモにだけでも取ってもらえれば、思い出してもらえるきっかけにはなります。
自分がよく知っていることほど知らない人に教えるのが難しいのは、何がわかりにくいかが自分ではよくわからなくなってくるからです。自分が何も知らない状態でこの話を聞いたらどう思うか?を常に意識し、できるだけ多くの人に伝わるプレゼンテーションをデザインしましょう。
※スライドはすべてmicrosoft Powerpoint office 2019 Windows10 を使用しています