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執筆者の写真Kobayashi Kei

伝わるプレゼンテーションをデザインする



「伝わる」とは?


「伝わる」技術にはニーズがあるようです。

プレゼンテーションについて書かれた本にはたいてい「伝わる!」とついており、私自身かつて「伝わる!医療者のためのスライドデザイン講座」というタイトルで講座を開いていました。

改めて「伝わるプレゼンテーション」とはなんなのでしょう?


2018年のデザイン講座のポスター。なつかしいです。


情報をシンプルに整理し、スライドをきれいに整えれば伝わりそうですが、それではただの情報伝達です。プレゼンテーションをプレゼンテーションとして伝えるためには何が必要か?考えていきましょう。


伝えるために大切なこと


「伝わる」ためには、あなた自身が「伝える」ことを意識しなければいけません。このとき大切なことは「誰に、何を、どのように、伝えるか?」をしっかりと考えることです。


今回はスライドではなく伝え方のお話です。


誰に伝える?


「誰に」はもちろんプレゼンテーションを視聴する観客です。あなたはどこまで観客をイメージできているでしょうか?

たとえば同業の医療者がメインの学会発表、ニッチな専門家集団の研究会、一般の方を相手にした公開講座では、話す内容や話し方がまったく異なるはずです。観客の集団をおおまかにイメージすることで、あなたが伝えるプレゼンテーションの方向性が定まります。


さらに、その集団の中にどのような人がいるか、個人としての観客をイメージします。観客は平均化された集団ではなく、予備知識の量や理解力、年齢、職種など全員異なる集団です。

まずは何人かをおおまかにイメージしてみましょう。その中で最も伝えたい人は誰か、もしくは最も伝わりにくそうな人は誰かを想定できれば、話し方や表現の細かな部分が固まってきます。

誰に対してプレゼンテーションをしていますか?


デザインの世界ではユーザーペルソナというものを作り、製品を使ってほしいユーザーを調査にもとづいて具体的に設定し、そのユーザーの課題を解決するためのデザインを考えます。「自分はこう作りたい」ではなく「ユーザーはこれを求めている」を中心に置くことで、人に求められるデザインができるのです。


「自分がこう話したい」ではなく「観客はこのような話を求めている」を中心に考えることができれば、伝える力は大きくレベルアップします。



何を伝える?


医療系プレゼンテーションは複雑な情報をまとめるのに手一杯になりがちです。自分の話を本気で伝えたいのであれば「私はこれを伝えたい!」というメッセージをできるだけ明確にする必要があります。


ここでのメッセージとは、自分の伝えたい情報をできるだけ簡潔なテキストで表現したものです。大きく二種類、プレゼンテーション全体の核となるメッセージと、スライドごとに何が言いたいかを示すメッセージを考えましょう。



核となるメッセージとは、プレゼンテーション全体を通して観客に最も知ってもらいたい情報です。これをできるだけ簡潔明瞭に示すことができれば、少なくとも一番大切な情報を伝えることができます。


たとえば研究であれば「こうした仮説を立て、このような結果が導かれた」もしくは「この研究から、このような未来の利益につなげたい」というメッセージであり、症例報告であれば「このような症例を経験し、このような有益な知見が得られた」というメッセージです。

これらはタイトルやまとめに使われる情報ですが、スライドを作った最後に考えるのではなく、プレゼンテーションを作る一番最初に考えましょう。この核となるメッセージを中心にプレゼンテーションを作ることで、観客は何を目的に話を聞けばいいのかがわかります。


続いてスライドごとのメッセージです。スライドに自分の持っているすべての情報を詰め込んではいけません。「このスライドで私はこれを伝えたい!」というメッセージをひとつだけ考えましょう。そしてメッセージに関係のない情報はすべて理解を妨げるノイズとしてできるだけ削りましょう。


スライドはあなたの話を適切に区切るブロックです。ブロックの前後をきちんとつなぎ、各ブロックのメッセージを明確に伝えることができれば、プレゼンテーションは確実に伝わるようになります。


どのように伝える?


ここまでで観客をイメージしたストーリーができていれば、あとはそれをどのように伝えるか、です。今回はプレゼンターの話し方について考えます。


どのように話すか、はとても大切です。特に動きの少ないオンラインプレゼンテーションは話し方が重視されます。

まずは自分がこの話を伝えたい観客をひとりイメージし、その人に向かってゆっくり、確実に話してみましょう。ただ情報を読み上げることと、相手をイメージして語りかけることでは大きく違います。あくまでも「相手に伝えたい」という姿勢が大切です。


そして、単語の区切りや声の抑揚にも注意しましょう。ダラダラと棒読みで話すのではなく、多少大げさなくらいしっかり音を区切り、緩急をつけた方がプレゼンテーションとしてはちょうどいいです。


あとは練習です。声を出すことは筋肉の複合的な運動です。話す練習をせずにプレゼンテーションに挑むことは、練習なしで試合に挑むようなもので、いろいろな意味で失敗します。声に出し、振り返ることで多くの発見があり、繰り返すほどにプレゼンテーションは磨かれます。

プレゼンテーションが上手な人はセンスがいいだけでなく、こうした地道なトレーニングを欠かしていないのです。


「伝わる」だけでいい?


プレゼンテーションを伝えるための考え方についてお話ししました。入念な下準備がよいプレゼンテーションを作るわけですが、ただ時間をかければいいわけではく、目的をもって準備することが大切です。


ただ、プレゼンテーションは「伝わる」だけでいいのでしょうか?さらに高みを望むのであれば、伝わったその先、観客にとって「価値のある」プレゼンテーションであるべきです。

観客にとっての価値とはなにか?まさにデザインの課題です。近いうちに考えていきましょう。



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2023年2月6日に「医療者のスライドデザイン」という書籍を出版しました。医療プレゼンテーションをデザインの視点で分析し、さまざまなテクニックを紹介しています。



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