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執筆者の写真Kobayashi Kei

【研修医・学生向け】シンプルスライドをデザインする前に

更新日:4月10日



「よくわかっていないのにデザインにこだわってしまっている」感じ

これまで、ここのブログや書籍、講演などで、シンプルで伝わりやすいプレゼンテーションのデザインについてお伝えしてきました。

その信念を否定する気はないのですが、医療プレゼンテーションの基本を知らずにいきなりシンプルを目指すのは相応のリスクがあると感じています。


先日、研修医を対象にしたスライドデザインワークショップを開催し、みなさんとても熱心に参加されて価値のある会になりました。

このとき、見た目のデザインをメインに教えてほしいという要望があり「スライドはできるだけシンプルに、余計な情報を削る」をコンセプトに取り組んでもらったところ、妙な危なっかしさを感じるシーンが何度かあり「ちょっとヤバい」と感じてしまいました。


デザインとしては改善されているのですが、医療系スライドとしての質がむしろ下がってしまう。「よくわかっていないのにデザインにこだわってしまっている」感じが出てしまい、このまま出したら上司にキツく突っ込まれるだろうなと心配になっています。


どうやらシンプルなデザインを追求する前に、専門家としてしっかりおさえておかなければいけないことがあるようです。

研修医や学生だけでなく、指導する立場の先生にもぜひお伝えしておきたいポイントを考えていきます。


説明できるようにする

情報詰込み系のスライドは、観客を無視して制作のコストパフォーマンスを上げたいのであれば最適な方法です。その最大の利点は、プレゼンターが情報を読み上げながら説明をできることです。反対に、スライドがシンプルになればなるほど話す内容を頭にしっかり入れて説明をしなければいけません。

また、スライドの情報が減ると注目がプレゼンター自身に集まりやすくなるため、うまく話せたときにとてもかっこよく映る一方で、失敗したときにめちゃくちゃ失敗した感じが出るハイリスクハイリターンの状態にもなります。


シンプルなスライドを目指すのであれば、まずはスライド無しでも自信を持って堂々と説明できるように内容をしっかりと頭に入れましょう。質疑も完璧なくらいに理解できていればいうことはないですが、そこまで準備をする余裕がなければ、質疑応答用のスライドをプレゼンテーションとは別に最後に作っておきましょう。

質疑を想定することで自分のプレゼンテーションがより練りこまれ、コミュニケーションとしての質も上がります。


簡略化しすぎない

字がギチギチに詰まったスライドはレイアウトがしづらいため、文字数を減らし、表現をより簡潔にすることでよりシンプルで伝わりやすいスライドにすることができます。

しかし、医学特有の専門用語や変えるべきではない情報まで変えてしまうと、途端に「ああ、こいつわかってないな」と思われるスライドになってしまいます。


たとえば、このような教科書からそのまま文章をとってきたようなスライドがあります。



これの情報を間引き、分類を明確にしたデザインにしてみました。



一見簡潔でわかりやすくなったように見えますが、大事な情報がいくつも失われ、Ⅰ型とⅡ型での情報の対比もできなくなっていることがわかります。情報を損なわずにデザインするとどうなるか。



このように、情報を表に整理しなおしてあげることで、それぞれの要素が見やすくなり、対比もしやすくなります。同じ情報でも、何を目的に、どう簡略化していくかで見せ方が大きく変わってくるのです。


このあたりは感覚的な部分なので、先輩から丁寧にフィードバックを受けることが大切です。

完成品のスライドを見せてフィードバックは作業コストが大きいので、スライドを作る前にテキストで内容を書き出し、チェックしてもらうことをお勧めします。

指導する先生もいきなりスライドを求めずに「何を話すつもりなのか?」をしっかり確認しておけば、手間を減らしてより質の高いプレゼンテーションを作らせることができるでしょう。


それでもデザインを追求してほしい

たとえば拙著「医療者のスライドデザイン」を読んでシンプルなスライドに挑戦し、上の先生に見せたらボロクソに言われることもあるかもしれません。そしてスライドをデザインするとロクなことがないと思い込み、なんの魅力もない慣習的なスライドしか作らなくなってしまうかもしれません。


そんな悲しい事態になった場合、おそらく原因の大半はデザインそのものではなく、デザインに対して十分なプレゼンテーションができていないことです。


常に伝え続けていることですが、スライドの前に、ストーリーとトークに徹底的にこだわりましょう。誰に対してどんな話をどのように伝えるかが明確であれば、極論どんなスライドでも心に響くプレゼンテーションになります。

そのためには自分の話す内容を十分に理解し、的確な言葉選びを修める必要があります。学部で学んだことを駆使すれば、それは問題ないはずです。


デザインは見た目をよくするだけのものではありません。いかに伝える相手のことを考え、いかに自分の話の価値を高めていくか、総合的に作りこんでいくことが大切です。

みなさんが素晴らしいプレゼンターになれることを願っています。


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