• Kobayashi Kei

医療×デザインについて

”デザイナーは通常、先入観を持って作業に取りかかることはない。むしろ、緻密な調査と観察の結果アイディアが生まれ、そのアイディアを元にデザインをする。そのため、デザイナーが自分に課せられた命題に対する適切な答えを見つけるには、ある種の思考プロセスを経なければならない。意識してか否かはともかく、デザイナーは分析し、解釈して、考案する。”

<Paul Rand 「ポール・ランドのデザイン思想」 1947初版>



"医療デザイン"という単語。いったい何をもって「医療をデザインした」といえるのだろうか?自分の関心をかたちにしていく上で、"医療"と"デザイン"についてよく考えているが、どちらもすそ野が極端に広く、うまく焦点が定まらない。一度現時点での整理をしてみたいと思う。


デザインには目的がある。それはクライアントや、ある特定の集団、もしくは社会全体の営みを、大なり小なり上質にするためのものを作ることである。医療にも目的がある。それは患者と呼ばれる人たちの心身の機能を社会的な標準、つまり健康と呼ばれるレベルに戻してあげることである。

あくまでも人間を相手にしているという点で、デザインと医療はよく似ている。デザイナーに分析と解釈と考案が必要なように、医療者にも同様なスキルが求められるという点も共通である。

しかし、デザインそのものは医療ではなく、医療そのものはデザインではない。最も大きな違いは、デザインは既存の常識を把握したうえでその枠を超えたアイディアを考え、求められているさらに先を作り出さなければならない。一方で、患者に医療を施す場合、エビデンスに基づいた治療によりマイナスの状態をゼロに引き上げることが目的である。ときにアドリブや独創性が試されるシーンも少なくはないが、それは主たる業務ではない。目の前の患者を相手に奇抜なアイディアや実験は控えられるべきであり、健康の”その先”まで目指すことも医療の本分とはされていない。


ただし、人が人を治すという行為が生まれてから、現代の治療が患者に届くまでのプロセスには、日々アップデートされている無数のデザインが溢れかえっている。一つの課題があればそこからいくつものデザインが作り出され、幸か不幸か医療現場にはいまだに改善すべき課題が山積している。医療デザインの代表的なものとして創薬、医療機器開発、臨床研究、病院経営などはまさにデザインであり、より良い治療を目指し優秀な専門家たちが不断の努力を続けている。

こうした現場のコアな部分には当然しっかりとした体制ができあがっており、仮にそこに私がなんでも屋さんのように「デザインいりませんかー?」と訪ねてもきっと大した役に立たない。それではどのような場所であれば、デザインはより真価を発揮できるのであろうか?思いつくキーワードはふたつ。”名前のない仕事”と”スキルの明確化”である。


名前のない仕事は、専門性の確立されていない、プロジェクト単位の仕事である。それは今までになかった新しい試みであったり、セクションを縦断して行わなければならない仕事であったりする。例えば漠然と”小児科病棟の雰囲気をよくしたい”とか、”患者と医療をつなぐ新しいネットワークを作りたい”など、大きな目的だけが決まっているとき、特定の専門家に丸投げしようにもどこにその専門家がいるのかすらわからない。現場スタッフだけでなく、複数の専門家とともにいわゆる寄せ集めの集団を形成し、プロジェクトの達成を目指す必要がある。こうしたやり方はとてもデザインという感じがする。


ただざっくりと”専門家”と言っているが、実際にそのような名前の職業はない。そこで大切なのがメンバーのスキルの明確化である。例えば私であれば「精神科医」「グラフィックデザインができます」「デザインについて勉強しています」など、各人が何が得意で何ができるかをはっきりさせ、プロジェクトチームの中で補いあい高めあう必要がある。それらは必ずしも高等なスキルである必要はなく、「誠実です」「単調な作業が得意です」「メールの返信超速いです」程度でも十分だと思う。逆に不得意な部分、私であれば「人見知り」「政治力まったくありません」「夜は眠いです」なども明確にしておくことで、より相互のサポートがしやすくなるかもしれない。


デザインの定義を狭めていくことが良いこととは思わない。しかし、こう考えていくと誰にでもデザインができるような気になってくる。それはとても大切で、モノのデザインよりもコトのデザインが重視される現代、専門的な医療デザイナーを育成するよりも、医療に携わるそれぞれの人が”デザイン”というオプションでアップグレードし、小さなことから大きなことまで柔軟に改善できるようになるほうがきっと有益である。

デザインは決して奥の浅いものではないが、いまやデザイナーだけのものではなく、”デザイン思考”のような形で多くの人に届くようにノウハウがパッケージングされている。何かを作る、何かを変えるという行為を他人事だと思っている人も、いざデザインをする側に立ってみたときに、改めて自分の仕事に対して多くの発見を得ることだろう。それはきっと今までの生活を面白く価値のあるものにしてくれる。


面白いことは、私にとって最重要の価値観である。せっかくデザインをするのであれば、自分にとって面白いこと、人が面白いと思えることをしていきたい。















「ポール・ランドのデザイン思想」

ポール・ランド (著), 海野弘 (その他), 河村めぐみ (翻訳) 2014