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執筆者の写真Kobayashi Kei

プレゼンテーション動画の視聴方法に関するアンケート結果

更新日:2020年10月27日

2020.10.27修正 「ストリーミング配信」→「オンデマンド配信」に修正しました。


先日募集したプレゼンテーション動画の視聴方法に関するアンケートを集計しました。

ほとんどの学会、勉強会がオンライン開催になっている昨今、みなさんはどのようにプレゼンテーションの動画を視聴しているのでしょうか?リアルの会場であればどのくらいの人がしっかり聞いているか、どれくらいの人が寝ているかは一目瞭然ですが、一方通行のオンライン配信では視聴者は何をしていてもバレません。

誰もが仕事やメールやネットをしながらマルチタスクで動画を視聴しているのか、それとも意外とみんなちゃんと動画と向き合っているのか、調査結果をお伝えします。



方法と結果


アンケートはGoogle Formで作成、医療スライドデザイン部Facebookグループで募集しました。有効回答数は57名。年齢、性別の内訳は以下の通りです

メインの質問は2問。オンライン学会やセミナーのプレゼンテーション動画をどのように視聴しているか、ライブ配信(特定の時間帯しか視聴できない)とオンデマンド配信(期間内であれば好きな時に視聴可能)にわけて尋ねています。

動画のみを集中して視聴しているか、それともマルチタスクで何かをしながら動画を視聴しているか。そして何かをしながらであれば、それはパソコン作業なのかそれとも他のことなのか、さらにそのときに動画はどのように視聴しているのかに着目し、調査しました。


まずはライブ配信の動画に関する結果です。

動画のみを集中して視聴している人が4割、半数以上が他のことをしながら視聴していると回答しています。マルチタスクの内訳を調べると

パソコンでメールやカルテ記入、他のサイトの閲覧などをしながら視聴している人が多く、パソコン以外の作業をしながら映像と音声両方を流しているという人が次点でした。動画を隠し音声のみという人も少数いましたが、音を消して映像のみという人はいませんでした。



続いて、いつでも視聴可能なオンデマンド配信の結果です。

オンデマンド配信になると動画のみを集中して視聴する人は2割に減少し、マルチタスクで視聴する人が8割近くになりました。


マルチタスクの内訳をみると、半数近くがパソコンで作業をしながら動画を視聴しており、ライブ配信のときより高い比率となりました。映像を見ずに音声のみという人もいましたが、少数派なようでした。




 考察1 基本的にマルチタスクがしたい


シンプルな質問でNもそれほど多くありませんでしたが、非常に興味深い結果でした。

まず大きな傾向として、ライブ配信であればオンデマンド配信であれ、半数以上の人が何かをしながら学習するための動画を見たいと考えていることが伺えます。

基本的にみなさん日々忙しく過ごされており、またインプットよりもアウトプットをメインとした日常を送っているため、じっくりとインプットのみに向き合う時間が作りにくいということが考えられます。

もうひとつ重要な点として、多くのプレゼンテーション動画にじっくり向き合うほどの価値を感じられていない、という可能性もあります。私自身、できれば他の作業をしながらプレゼン動画をみて、溜まっているタスクをこなしつつ勉強したいと考えているくちです。しかし、ときにマルチタスクを許さないほど関心をひく動画もあり、そのときにはもうひとつの作業の手は止まるものの、価値あるプレゼンテーションに出会えたことの喜びの方が勝ります。

医療に限らずほとんどの労働者にとって学習はサブタスクです。基本的にメインタスクを続けながら、効率的に学習によるインプットを増やしたいと考えるのは自然なことで、その一方で、マルチタスクを許さないほど自分にとって価値のある情報に出会いたい、と思っているのが正直なところではないでしょうか。さらに考察を続けます。



 考察2 何をしながら視聴しているか?


ここは今回の研究のLimitationになるのですが、どのようなマルチタスクをしながら動画を視聴しているのかは気になるところです。今回は私自身の先入観から「パソコンで他のことをしながら動画を見ている人が多そう」と考え、「パソコンをしながら」と「パソコン以外をしながら」の二つにわけました。

結果としてはどちらの質問でもパソコンで別作業をしながらの人の方が、パソコン以外をしながらよりも多かったのですが、パソコン作業にもいろいろあり、さらにパソコン以外の作業はあまりにも幅が広く、食事をしながらの視聴とスマホでゲームをしながらの視聴ではだいぶニュアンスが異なってきます。

ここで考慮すべき点は、もう一つのタスクにどれだけ認知のリソースが注がれているかです。完璧なマルチタスクは人間は不可能と言われており、学会発表のような複雑な情報を完璧に理解しながら、同時に全く別の自分の論文を執筆し続けることはおそらく無理です。

マルチタスクの程度は人によって状況によってさまざまではありますが、言い切れることはマルチタスクをした時点で動画から得られるインプット量は確実に減る、ということです。医療者がどれだけ学べているかをテストすることは難しいですが、今回の結果は学習効率の向上よりも学習の質の低下と関連しているのかもしれません。

学会がオンラインになり参加者数が増えたのか減ったのかは把握していませんが、仮に移動コストがなくなったことで参加者数は増えたとしても、伝わるべきインプットの質が低下しているのであれば、それはなかなか大きな問題です。



 考察3 ライブ配信 or オンデマンド配信


ここが個人的に今回の調査のハイライトであり、デザインにも大きく関係しているところです。ライブ配信とオンデマンド配信で視聴の仕方を尋ねたところ、動画のみを真剣に視聴できる人の数がオンデマンド配信では大きく下がるという結果が出ました。これは仮に同じ内容であっても、ライブ配信の方がより集中してみる気にさせるということを示唆しています。

ライブ配信とオンデマンド配信の最も大きな違いは、時間に対する自由度です。オンデマンド配信であれば再生する時間帯を選べるだけでなく、スキップや巻き戻し、一時停止、動画によっては再生速度を変えることもできます。またオンデマンドでは大勢の人で同時に見ているという一体感がなく、あくまで個人で視聴しているという感覚となるため緊張感もありません。

こうした自由さは「便利でありがたい」と感じさせる一方、「今この時間に絶対に見ないといけない!」に由来する集中力を激減させます。特に没入度の低いロークオリティのプレゼンテーション動画に対してはその傾向が顕著です。

リアルの学会会場であれば、着席したことの緊張感や演者に見られているというプレッシャーもあるため、より集中の度合いは増しますが、オンデマンド動画では面白くなければ画面を閉じればそれで終了です。「また今度見よう」と思っている間に学会期間は終わります。


それならばこんなダメなオンデマンド配信はやめにして、すべてライブ配信にすればみんな熱心に聞いてくれるのではという発想もありますが、それはそれでオンラインの強みを殺してしまいます。会の終了後にアンケートをとればおそらく「オンデマンド配信にしてほしい」という声は多いことが予想され、時代の流れを考えると得策ではなさそうです。


理想的な解決策は、コンテンツの充実です。そもそもプレゼン自体がおもしろくないのが問題であり、マルチタスクをしていられないと思えるほど医療プレゼンテーションが見ごたえのあるものに成長できれば、リアルの学会や勉強会を凌駕するほど価値のある学習方法になるかもしれません。そのためには元々のプレゼンテーションデザインのスキルだけでなく、動画配信に特化したスキルを研究し、習得していく必要があります。これは一朝一夕でできることではなく、多忙な医療者全員に求めるのは酷な話ではありますが、イノベーティブな医療者たち、特に若い人たちは既に実践し、非常に魅力的なオンラインプレゼンテーションを見せてくれています。

おそらく今は変化の時期です。未曽有の困難は、新たな発見と前進を私たちにもたらしてくれます。いま面白くなくなっていることに不平不満をいうだけで終わるか、それともどうすればより面白く成長できるかを考えられるかが分岐点です。


そして個人のプレゼンテーションスキルの向上を求めるだけでなく、配信のプラットフォーム側にもまだまだ改善の余地はあると考えています。例えば配信用に提出された動画をそのまま流すのではなく、なにか編集を加えることでより魅力的にできないか、見る価値のあるコンテンツの魅力をより高める配信の方法はなにか、今後リアルとオンラインのハイブリッドが可能になった場合、どのようにデザインをすればよいかなど、難しいですが取り組む価値のある課題はたくさんあります。


これまでの慣習を軽視すべきではないと思いますが、今までのやり方をそのままオンラインに持ち込んでもおもしろくないことが浮き彫りになってきています。プレゼンテーションをすることはどういうことか、学ぶことはどういうことか、まで問いを還元し、新しい学びのデザインを考えていければ面白そうです。


※今回のスライドのPDFファイルはこちらからダウンロードできます。引用もOKですのでぜひご参照ください。 スライドをダウンロード



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