• Kobayashi Kei

オンライン講義をデザインする

”よくわかるためには自分でわかる必要があります。自分でわからないところを見つけ、自分でわかるようにならなければなりません。自発性という色がつかないと、わかっているように見えても、借り物にすぎません。実地の役には立たないことが多いのです。”

<山鳥 重 「『わかる』とはどういうことか―認識の脳科学」 2002>



COVID-19の感染が世界中に拡大し、医療、経済、文化、物流などが様々な困難に見舞われていますが、世の教員および学生は突如現れた「オンライン講義」という厄介な課題に打ち震えています。確かにこれまでにこうした方法があることはわかっていた、今この状況で必要なこともわかる、ただ自分は極力やりたくもなければ、受けたくもない…。こうしたモチベーションの低さが容易に想像でき、指導者もエキスパートもおらず、ガイドラインもない全員ほぼ一律に手探りのこの状況。ただただ悲観するのではなく、むしろこれまでの授業の慣習に縛られない、教えること、教えられることの新しい在り方を考えるポジティブなチャンスとしてとらえ、まずはブレインストーミング的にオンライン講義のデザインを考えていきたいと思います。


0.シチュエーションの設定

オンライン講義にはいくつかのスタイルがあります。今回は医学部の一般的な講義として、受講人数70~100人程度、90分程度の授業時間を想定します。発信方法としてはライブと録画がありますが、多人数の場合はライブでの双方向コミュニケーションが難しいため、録画での配信を考えていきましょう。

1.時間を分割する


もうずいぶん昔から思っていましたが、90分の講義は長いです。聴くだけではなく手も動かせる実習が充実していたり、よほど関心の持てる話を面白おかしくしてくれたらあっという間に過ぎますが、おおよその講義の場合、集中力はもちません。

講義室のような拘束力のある空間であればしかたなく聞き続けることもできますが、自宅でオンライン講義を見る場合、デジタルの耳障りな音質でパソコン画面を90分凝視し続けることはかなり苦痛であり、仮に画面を見ずにその場を去ったとしても誰にも気づかれることすらありません(録画配信の場合)。

基本モチベーションが高くなく、学力や視聴環境もバラバラの学生相手にどうすれば少しでも見る気にさせることができるのでしょうか?

ひとつのアイデアとして、時間を短く分割してみましょう。講義室での「90分の講義」であればやむを得ず座り続けることができますが、「90分の動画」は見るためのハードルが非常に高くなります。これを「30分の動画」×3にしてあげることで、見始めのハードルが下がり、集中力も持続でき、内容のメリハリもつけやすくなります。例えば「統合失調症」がテーマであれば、「統合失調症 ①症例編 30分」「②解説編 30分」「③国試対策編 30分」などに分割すると、一連の流れで見たいという気持ちを刺激できるかもしれません。

ただカリキュラムを圧縮して詰め込むだけでなく、時間内で伝えるべき内容を整理し、伝わる形にデザインすることが大切です。うまくやれば90分も必要ないかもしれません。



2.時間を制限する

講義室にあってオンラインにないもの、それは空間の緊張感と時間の緊張感です。「この日この時間にこの講義室に行かないとこの講義は聞けない」という緊張感が、無理やりにでも講義に参加させるモチベーションになっていることは間違いありません。録画のオンライン講義の場合、いつでも好きな時に好きな場所で見られるというのは大きな利点でもありますが、いつ見てもいいのであれば、元々乗り気でない講義を延々と聞くために誰がわざわざ自分の予定を最優先で割くでしょうか?

なんらかの形で緊張感を作り出すことは大事です。「好きな時にこの動画を全部見て、前期が終わるまでにレポートを提出してください」よりも「この動画は4月17日午前6時から午後0時まで視聴可能。必ず最後まで視聴し、アンケートを提出して出席とする」とした方が、強制的に予定を入れなければいけないため、見る側もある程度諦めがつきます。オンラインの長所をフルに生かすのではなくあえて殺すことで、リアルの講義に近い緊張感を保てる可能性があります。評判は悪いかもしれませんが。


3.考えさせる

人間の思考はインプットとアウトプットでできています。講義を受ける人は基本的にインプットにほとんどのリソースを割いているので、突然質問されるなどアウトプットを求められるとすごく嫌がります。ただし、インプットばかりを長時間集中させ続けることは難しく、オンラインの授業の場合、その限界は講義室の授業よりも早くきます。画面や音質の問題、そして自宅環境では場所の緊張を保ち続けることが難しいことなどが原因です。

従来のインプットメインの一方通行ではなく、アウトプットの思考をうまく刺激することで、授業に参加している意識が高まり、教える側も具体的なフィードバックを得ることができるでしょう。アウトプットを刺激する、議論が可能な双方向ライブ配信であればイメージがしやすいですが、録画の場合はどのようにしたらいいでしょう?

最も単純な方法は問いかけです。昔から問答によって学問は進歩してきました。教師から質問を発信し、生徒と共に考えていくような講義ができれば、考える経験として講義をデザインすることができます。

世の中には様々な問いかけがありますが、例えば思考の長さでザックリと分類すると

1)Short

質問に対して即座に回答を出せるスタイル。3択クイズなど。


つかみや中だるみの防止として使いやすいです。アルゼンチンタンゴ依存症についてはこちら


2) Medium

講義の解説を聞いていく中で正解に辿りつけるスタイル。症例問題など。NHKが研修医を集めてやっていたあの番組のイメージです。

文字多いですね…。序盤で症例をだし、診察を想定しながら解説も交えると面白い講義になります。

3) Long

講義の後に自分の力で調査し、思考を重ねることで、回答に辿りつけるスタイル。宿題向きです。

ここまでくるとグループ実習のレベルですね。出された方はげんなりしそうですが、自分の好きなことを書いていい余地が与えられているレポートは個人的には好みです。


医学部の勉強では基礎の筋トレのような大量丸暗記のプロセスもとても大切ですが、それは授業以外の独学の過程で培われるものと私は考えています。講義の役割としては、未知の医療・学問領域の扉を開け、その先のディープな世界に入りやすくするためのガイドをし、学ぶ関心を高めることの方が有用ではないでしょうか。

「楽して学べる!」のような商売っ気は必要ありませんが、わかりやすく、興味深く、これまでの形に縛られないフレキシブルな講義が生まれるきっかけになるとおもしろいです。



4.講義室でやる

外に出させるような提案をするべきではありませんが…。いざ自分がオンラインで講義をするとなったとき最も高いハードルは、「自宅のパソコンの前でテンションを上げること」です

人が目の前にいて少しうなずいてくれるだけでも話しやすさは全然違います。理想的には実際に机と椅子が並んでいる講義室にいき、誰か一人でも観客に来てもらって話すことができれば、従来の講義とほぼ同じトーンで話ができるかと思います。

ただ不要不急の外出が制限されている今、やはり自宅でやらなければならない。その場合は家族に目の前に座ってもらって聞いてもらうか、一人暮らしであればフィギュアやぬいぐるみを置くだけでも多少は違うかもしれません。

イメージとしてはかつて自分が受けた予備校の授業のテンションをまねすればやりやすいかもしれません。最初は誰もが相当な照れと緊張を伴うと思います。ただ実際に配信され、好意的なリアクションを得ることができれば、オンライン教師としても新たな扉が開く可能性も秘めています。


いくつかアイデアを出してみましたが、ソフトの設定や視聴環境の統一、評価の難しさなど、まだまだ課題は多いかと思います。問題点やアイデアを、Facebookグループで共有できれば、これからのオンライン講義の助けになると考えています。ぜひお気軽に書き込んでください。



情報提供:大阪医科大学 医療統計室 伊藤ゆり准教授


参考:立教大学経営学部 中原淳研究室 http://www.nakahara-lab.net/

「『わかる』とはどういうことか 認識の脳科学」 山鳥 重 2002